防音室の「遮音性能」とその効果
はじめに
仕事から帰って、夜、アコースティックピアノを思う存分に弾きたい! 隣の家がない田舎暮らしならともかく、街なかに住んでいる場合、夜のピアノ練習には防音室は必須です。
ピアノに取り付ける消音器具もありますが効果は限定的ですし、消音ピアノはアコースティックピアノを存分に弾いている気分にはなりません。
自宅でのピアノ練習に避けて通れない「防音」について考えてみます。
なぜ、防音室が「必須」なのか?
音の強さ(大きさ)は「dB(デシベル)」、音の高さは「Hz(ヘルツ)」という単位で表されます。
ピアノの音の強さは一般的に90~95dBとされています。当然ながら、弾く楽曲や演奏する人の技量によって、強さ(大きさ)は変動します。
子供なら70~90dB、大人で90~100dB、ホールの隅々にまで音を響かせることができるプロピアニストの場合は110dB以上といわれています。
大人のピアノの音量(90〜100dB)と同等の大きさは、地下鉄のホーム内での列車の通過音と同じくらいです(下図参照)。なんと、パチンコ店内やボーリング場の音よりも大きいのです。
ピアノに興味のない人にとって、ピアノを練習する音は「騒音」以外の何者でもありません。
実際、1970年代、アップライトピアノが急速に一般家庭に普及した時代、集合住宅で、隣家の子供が弾くピアノ騒音が社会問題になり、「ピアノ公害」という言葉が生まれました。1974年には「ピアノ騒音殺人事件」まで起きたのです。
ピアノ騒音殺人事件は、1974年(昭和49年)8月28日の朝に神奈川県平塚市で発生した殺人事件である。近隣の人間にピアノの騒音を理由として母子3人が殺害された。近隣騒音殺人事件の第1号として知られている。
ピアノ騒音殺人事件(Wikipediaより)
ピアノを練習する音は騒音である。
この事実をしっかり心に留め置く必要があります。そして、ピアノを弾くことで隣人に迷惑をかけない。これは大原則です。
遮音性能と効果を試算
さて、防音室で一番気になるのは「遮音性能」。音が隣家に漏れておらず、漏れたとしても迷惑をかけていないか?ですね。
防音室の遮音性能は、JIS(日本工業規格)で定められた「Dr値」(ディーアールち)という指標が使われています。この等級は、実際に何dBの音を遮ることが可能かを表わしています。
ヤマハの「アビテックス」、カワイの「ナザール」等、主要な防音室ユニットの性能を確認すると、だいたいDr30、Dr35、Dr40の遮音効果で設計されています。
なお、家の中で快適に過ごせる音の基準は、だいたい次のようです。
- キッチン 50〜45dB
- ダイニングルーム 50〜45dB
- リビングルーム 40dB
- ベッドルーム 40dB
- 勉強部屋 35dB
ですので、リビングルームの隣で大人がピアノを弾く場合、大人のピアノの強さ(大きさ)が95dB。Dr35の防音室を導入すると、リビングルームでは95dB−Dr35=60dB程度でピアノの音が聞こえることになります。
「これでは、かなりの音が隣家に漏れるのでは?」と不安に思いますよね。
ただ、防音室の外には建物の壁や床があるわけですから(よほど薄い壁や床でないかぎり)、35dB以上の遮音性能を持つ防音室なら、ほぼ隣家に迷惑をかけることはありません。
最後に「騒音規制法」という法律が定める基準値について、記載しておきます(出典:騒音規制法パンフレット)。こちらは主に工場や事業所の騒音が対象ですが、ピアノも騒音である以上、参考になるかと思います。
- 第1種区域…良好な住居の環境を保全するため、特に静穏の保持を必要とする区域
- 昼間:45~50dB
- 朝夕:40~45dB
- 夜間:40~45dB
- 第2種区域…住居の用に供されているため、静穏の保持を必要とする区域
- 昼間:50~60dB
- 朝夕:45~50dB
- 夜間:40~50dB
- 第3種区域…住居の用にあわせて商業、工業等の用に供されている区域であって、その区域内の住民の生活環境を保全するため、騒音の発生を防止する必要がある区域
- 昼間:60~65dB
- 朝夕:55~65dB
- 夜間:50~55dB
- 第4種区域…主として工業等の用に供されている区域であって、その区域内の住民の生活環境を悪化させないため、著しい騒音の発生を防止する必要がある区域
- 昼間:65~70dB
- 朝夕:60~70dB
- 夜間:55~65dB
夜間の練習は防音室内であっても、隣近所に迷惑をかけないために、外には45dB以下の音漏れに収めるよう心がけたいものです。